本年度は19世紀の中国辺境諸省における移住と民族関係及び民間宗教について、基本的なデーターを整理するべく、台湾の故宮博物院所蔵の档案史料を系統的に収集、整理する作業を行った。特に嘉慶、道光年間の軍機處档案、咸豊年間の宮中档案の関連部分をコピーして持ち帰り、項目別の整理を進めた。 その結果移住と民族関係については、四川の彝族反乱と雲南のリス族反乱に関する史料が比較的豊富であり、両者の比較研究を中国王朝の辺境開発政策を踏まえつつ行なうことが可能であると判明した。また移民プロパーで見た場合、北京で天理教との関連を告発された江西人移民事件、湖南湘潭県における江西移民と湖南人の紛争など、移民をめぐる問題が西南中国にとどまらず、当時の中国社会において普遍性を持った問題であったこと、西北地区に流刑となった青蓮教徒の活動や、安徽及びその周辺各省を流動しながら活動した初期捻子など、従来秘密結社や農民反乱の枠組みで捉えられてきた事件についても、移民の視点が不可欠であることが明らかになった。 なお本年度の重点的な研究項目であった台湾の移民社会と張丙の乱、分類械闘の関係については、出版予定の共著においてその内容を分析した。また湖南雷再浩反乱についても現在軍機處档案を整理中であり、来年度に分析を進める予定である。さらに進行中の研究として広東、広西における社会問題と各種反乱に関する軍機處档案の整理がある。特に広東の史料は膨大な量に上るため、まず宮中档案から重要事件をピックアップし、軍機處档案の関連部分を優先的に整理したいと考えている。
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