同研究では1930年代から自由将校団の革命が起こった1952年までのエジプトにおける立憲君主制期の社会・経済問題をめぐる議論について「知識史」の観点から考察し、とくに当時活発に議論された「貧困」や「農村・農民」問題の議論を解明することを目的とした。2年間の研究の1年目にあたる本年度は、8月と今年の2月-3月に約3週間ずつエジプトに滞在し、アメリカ大学や国会図書館、公文書館で資料を調査し必要な資料の収集を実施した。また現地の研究者と面会して方法論や資料についての助言を得た。現地での活動においては以下の3点、つまりa)思想間の相互の影響について、b)貧困議論の起源、c)農民の自らの貧困観に焦点をあてた議論の解明を目的として資料調査、収集を行った。結果的に資料の面で成果があがったのはb)においてで、40年代から遡って30年代の貧困議論をみる資料の収集、特に当時の文化総合雑誌である『アル・リサーラ』や『アル・サーカファ』に関連の記事を多く見つけることができた。これに関して顕著なことは30年代前半まで遡ると関連の記事は極めて少なくなることである。これは1936年の英国との条約締結との関係を考察することが必要であると考える。思想間の相互の影響については、すでにある程度の研究は行っているので、新しい資料の発掘、特に関連の省庁、研究所の文書や農地改革の法案の提案者の自伝などを念頭においた。社会問題研究所や閲覧許可を受けた国立公文書館でこれらの資料を探したが、関連の資料は見あたらず、今後も続行してゆく。農民の自らの貧困観については、現地の研究者との面会において、当時の事情を知っている農民へのインタビュー、議会議事録や新聞・雑誌に掲載されている農民の陳情、さらに、ことわざ、小説などから解明の可能性があることが考えられ、来年度の課題の一つとなった。
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