今年度の研究計画に従って、まず昨年度から継続している15〜17世紀の帝国議会最終決定議事録の項目別整理作業を引き続き進めた。また、昨年度の作業の成果として、帝国最高法院に関する論文を発表した。さらに、昨年度のこの作業の中で明らかになった郵便問題に関する情報収集に今年度は特に重点をおいて作業が行われた。15世紀以降の印刷技術の改良および商業の活性化によって、当時のヨーロッパはより効率的な情報伝達手段を必要とし、15世紀末以降ヨーロッパ各国において、郵便制度が成立する。ドイツでも1490年に最初の組織が設立され、16世紀末にはタクシス家に帝国レーンとして帝国郵便長官職が授与された。これ以降、自立化の傾向を示しつつあった領邦と帝国との間で、郵便事業をめぐって様々な対立が生まれることになる。その際の問題の中心は、郵便事業が皇帝のレガリアなのか、あるいは領邦君主のレガリアであるのかという両者の権力、法的立場の問題であった。この問題は帝国議会をはじめ、クライス会議などの様々な集会において討議されている。わが国ではまだほとんど紹介されていない15世紀以降の郵便事業の実態を把握するために、当時のヨーロッパ諸国間の郵便ルート上重要な位置を占めていたスイスの郵便事業を理解するために、ベルン大学で資料収集を行うとともに、当時の情報伝達手段の方法についての助言を受けた。帝国の政治構造の分析をするための一つの具体的な問題として、郵便問題はふさわしい問題であることが明らかとなり、現在は17世紀半ばから18世紀における郵便問題の処理の方法およびプロセスを整理している。来年度以降、この研究の成果を発表することを計画している。
|