第3年度の目標は、モスクワが次第に北東ルーシの支配権を握ってゆく過程におけるルーシとモンゴルの関係を考察することであったが、本研究は今年度にはいって大きく予定からそれることになった。それはモスクワ台頭以前の両国の関係にいまだ論じ尽くされていない多くの問題があることが明らかになったからである。とりわけモンゴル支配確立期のウラジーミル大公であるアレクサンドル・ネフスキー(在位1252-1263)の取り扱いが必須の課題であることが強く認識されることになった。第2年度途中から本年度いっぱいにかけては、この課題に集中的に取り組むことを余儀なくされた。その成果は本実績報告の「研究発表」欄に記載の通りであるが、合計700枚(400字詰め原稿用紙換算)を越える拙稿により、ロシアにおけるモンゴル支配の確立には「愛国的英雄」アレクサンドル公の存在が大きかったこと、同公は従来のロシアにおける諸研究、各種歴史叙述においてあまりに神聖化・理想化されすぎてきたことが明らかにされたと考える。拙稿は同時にアレクサンドル・ネフスキー研究における史料とりわけ諸年代記の比較研究、及び500本もの写本で伝わる『アレクサンドル・ネフスキー伝』の史料的研究の重要性を主張したが、そのことも一つの重要な成果であったと考えている。こうした結果に鑑み、本年度の研究活動が、当初の予定と異なるものとなったこともある程度止むを得ないものであったと考える次第である。
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