古代ローマには、トリブスと呼ばれる市民団の下部単位が存在したが、トリブスは民会での投票単位にはじまり、戸口調査、徴兵・徴税、審判人の選出等々、古代ローマ人の社会生活・政治生活において実に様々な機能を果たしていた。本研究はこのようなトリブスに関して、もっぱらその社会的諸機能に考察の焦点を据えることにより、それが共和政期のローマ社会において担っていた役割を総合的に検討することを課題とした。 ただし私は、すでに本研究課題に先だって、審判人の選出(徴税・徴兵を含む)および市民団の拡大とトリブスとのかかわりに関して考察を行い、その成果を公表してきた。そこで本研究では、トリブスの社会的諸機能のうち、まずは市民団の登録という最も基本的な機能との関連で都市トリブスの性格について、ついで帝政期に見られる穀物配給とトリブスとの関連についての2点を検討した。その結果、前者に関しては、それが一般的に考えられているような「社会的には劣格で政治的には不利な」トリブスではないことを明かにし、トリブスが従来考えられてきた以上にニュートラルな単位であったことを指摘して、通説を修正した。また後者については、穀物配給との関連で現れるトリブスが、全ローマ市民を包含する組織としてのそれではなく、あくまでも穀物供給に与ったローマ市居住のローマ市民の組織にすぎなかった点を明らかにし、帝政期におけるトリブスの衰退を展望した。
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