研究概要 |
本研究は、ローマ帝国の1世紀から2世紀後半までの長期におよび、広大な領域にわたる支配はいかにして可能であったのか、という問題意識から、帝国の支配下に組み入れられていた属州民の心性を、初期キリスト教徒のそれをも含めて考察し、ローマ帝国の安定的な支配のイデオロギー的空気を明らかにすることを目的とした。以下、研究実績について述べる。 1.平成13年度より順次調査・収集を行った。1〜2世紀ローマ帝国の統治・支配に関わる研究動向の把握と関連する史料・研究文献の調査・収集。2世紀までのローマ帝国下の「安定」についての史料及び近年の考古学の成果の調査・収集。ガリア・ブリタニアのラテン語圏属州のローマ帝国観を知らせる、タキトゥス、スエトニウスなど帝国側と、初期キリスト教など被支配側の史料に関する研究文献を調査・収集。 2.上記史料・文献等を検討し、ローマ帝国のガリア、アシア、ヒスパニアの各属州の歴史的状況を研究した。特にそれら属州における都市に着目し、都市上層民が、イタリアの皇帝・政府高官との親しい関係を目指しつつ地元において都市の美化、一般属州都市民の社会生活改善に努め、また皇帝礼拝をも祭典や神殿建設などの形で推進して皇帝支配安定に貢献したことを明らかにした。また属州の初期キリスト教徒とこれを迫害する都市民衆についての研究を進め、帝国の支配の矛盾につながる側面をも視野に入れて考察した。 3.平成13年度より毎夏計3回連合王国に出張し、ロンドン大学古典学研究所で調査と研究に従事して、上記の研究につき大きな成果を上げた。また平成13年にはケムブリジ大学でP.Garnsey教授と、オクスフォド大学でB.Levick講師と会い、ローマ帝国属州史研究について意見交換し、有益な研究上の情報を得、交流を果たした。さらに平成15年度には別途スペイン王国に赴き、ローマ帝国の1大属州ヒスパニアであった同国の風土、遺跡、出土遺物等を実地調査した。 4.平成14,15年度に、別頁に掲げるとおり、研究成果の一部を公表した。それに先立ち、宮城学院女子大学キリスト教文化研究所主催の公開講演会、及び日本西洋史学会第53会大会公開講演会において招待講演を行い、本研究成果について報告した。現在までの所、属州民の心性全域にわたっての研究に至っていないが、地域的にはガリア、主題としては属州都市と初期キリスト教徒の心性史的研究について研究実績を明らかにした。
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