本研究計画は3カ年にわたり実施される。 平成14年度(第2年度)における実績概要は以下の通りである。 研究事項:10〜11世紀地中海世界の国際情勢調査 中世キリスト教世界の社会変動実態分析 初年度に引き続き、10〜11世紀の地中海世界を取り巻く国際環境について概観した。二次文献によってキリスト教世界とイスラム世界の勢力分布を確認し、局地的紛争についても概観を得た。この地政上の配置を前提として、キリスト教世界の東西交渉について、一次史料に基づく分析を推進した。 ザクセン朝の王オットー1世(在位936-973年)は、962年2月2日にローマ市において「ローマ皇帝」として戴冠した。この事件を機軸に、それに象徴される一連の政治事件、つまり「中世キリスト教世界」を構成するビザンツ帝国、「ドイツ王国」、「イタリア王国」、ローマ教皇庁間の外交交渉について調査している。この調査は、以下の4つの部分作業からなる。 (1)ビザンツ帝国の(a)公文書、(b)ギリシア語歴史記述、(c)西欧社会の各種ラテン語史料(皇帝書簡、教皇書簡、年代記等)の調査、分析。 (2)以上の文書に現れた東西両社会における「世界観」の個性的把握。これには、各著述家の知的バックグランド把握の作業を含む。 (3)東西両世界における社会の統合原理、またそれを担保した制度・機構についての比較考察。 (4)社会変動による「西ヨーロッパ」「ビザンツ」両社会における社会統合の態様変化についての分析。 このうち平成14年度には、(1)(2)の作業が中心となった。とりわけ、外交使節としてコンスタンティノープルに到来した西方宮廷人(ランゴバルト系出身のクレモナ司教リウドプランドなど)が書き残した記述の分析と、これに対応するビザンツ側ギリシア語史料の分析に重点を置いた。その中間報告は、『西洋史研究』(平成14年11月刊)で公表した。なお、リウトプランドの『使節記』については邦訳を完成し、現在刊行準備中である。また、オットー朝期の公文書についても、ビザンツ側公文書との関連において分析(テキストの内容・様式等を含む)を推進した。
|