研究概要 |
本年度は、まとめの年であり、中世の都市コムーネの起源から考察し直そうと考え、一昨年イタリア学会で報告した時に質問のあった「司教コムーネ」概念で都市コムーネの起源が説明できるかの問題に取り組み、これまでの「司教コムーネ」を提唱してきた論(Solmi, Manaresi)とそれを否定する論(Volpe, etc.)とを明確にした上で、「司教コムーネ」概念をとらえる糸口を住民のミサ後の集会(Conventicula)に求めて考察する重要性を、12月5日安田女子大学で開催された中国四国歴史学地理学協会の研究会で、「中世イタリアの都市コムーネ像の探求」というテーマで報告した。都市コムーネ像がうまく描かれたいろいろな作品を探求してきたが、都市の理想像は、図像ではシエナのロレンゼッティが描いた『良き政府像』であり、記述史料では初期ルネサンス期に描かれたブルーニの『フィレンツェ市賛美演説』ではないかと考える。後者はローマ時代のアリスティーデスの『パンアテナイコス』の模倣ではないかと、従来考えられてきたが、詳細な比較研究を行うと、三つのモデルを参考していることに気づいた。その研究を「L.ブルーニの「美による統治論」-(4)アテネモデル、共和政ローマモデルとコムーネモデル-」(『広島大学大学院教育学研究科紀要』第二部(文化教育開発関連領域)第53号69〜78頁)で報告している。 また中世からルネサンスにかけて市民像の変遷の概要を「中世イタリアの都市条例にみる市民像」(佐藤眞典先生退職記念論集準備委員会編『歴史家のパレット』渓水社所収、92〜108頁)で明らかにしている。
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