平成13年度は、1920年代末〜30年代初頭におけるスターリン体制の工業化・農業集団化政策が引き起こした食料不足、食料危機について、国民がどのような意見をもち、体制の政策に対してどのような評価を下していたのかを探った。そのための中心的作業は、モスクワ市中央自治体アルヒーフ、モスクワ市杜会運動中央アルヒーフにおいて行われた。その作業の結果明らかになったことは、工業化政策が失業の解消や強力な国家建設に寄与すると考えて当初それに期待を寄せていた国民(とりわけ若い世代)の間でも、その短期的な結果が急激な生活水準の低下と目常生活上の諸困難という形で明らかになると、体制への信頼が急速に失われ、数多くの批判が手紙の形で指導部に寄せられ、その種の不満が広く人々の間で語られていたということである。一部の地域では、公然たる抗議行動も発生した。 以上の知見は、従来の研究でもある程度明らかにされており、それが今回の作業で再確認されたものともいえるが、今回のアーカイヴ調査において、これまでほとんど知られていなかった地域コミュニティの活動を窺い知れる資料を「発見」できたことは今年度の最大の成果であった。その資料によると、モスクワ市のキエフ地区住民が、地域住民の食料事情を改善するために自主的に運営する公共食堂を1929年に開設し、1940年までそれを維持していたことが判明した。もちろんこれは、自治体や食料配分機関の一定の支援を受けてのことであるが、自らの食料事情の改善活動を、住民が、個々ばらばらの利己的行為としてではなく、公的性格を帯びた共同事業として取り組んでいたことは、これまで全く知られていなかった事象だと思われる。以上得られた知見は、「スターリン体制下のコミュニティ活動」という次の研究テーマの手がかりになると考えられる。
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