平成15年度は、ソ連政府の対外政策に関する国民の意見や評価を探る研究に着手するとともに、本研究課題全体のとりまとめに向けて、過去2年間に進めてきた作業の総括を予定していた。しかし、前者については十分な資料が発見されなかったこともあって必ずしも進捗を見ず、今年度の成果の大半は後者のとりまとめ作業において得られた。 まず、研究課題にかかわる諸外国の研究動向を改めて整理するとともに、一昨年度および昨年度のモスクワでのアーカイヴ調査を通じて分析を進めてきた資料(1930年代にモスクワ教育大学に在籍し、寮の部屋を共にした4人の女子学生によるコレクティブ・ダイアリー)を再検討することにより、「スターリン体制下の個人と親密圏」という論文を執筆した(雑誌『思想』に公刊)。諸外国の研究動向に明らかなように、日記を資料に用いてスターリン体制下の個人の内面世界や体制評価を分析したものが増えつつあるとはいえ、複数の人物の共同の手になる「日記」を資料に用いて、スターリン体制下に存在した「親密圏」や間主観的な擬似「公共圏」の世界を析出した研究は皆無であり、その意味からもこの論文のオリジナリティは高いと考えられる。また、総括作業の一環として、同じく、過去2年間におけるモスクワでのアーカイヴ調査により得られた市民の「権力者への手紙」を詳細に検討することで、スターリン体制下における「異論」の一端を解明した。これは、2003年度中国四国歴史学地理学協会研究大会(2003年12月7日)において「スターリン体制下の世論」という表題の下で発表された。そして、今年度は研究期間の最終年度に当たるため、昨年度までの研究成果に以上二つの今年度の成果を加えて総括作業を実施し、それを研究成果報告書にまとめた。
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