1.【史料論】4月2日から5日までの4日間、熊本大学において、日英中世史料論のシンポジュウムを主催した。内外より100名弱の研究者を招いて、日英における、証書系文書、台帳系文書、中央政府の資料保管、宗教組織の史料補間の類似と差異を、(1)文書の層序学、(2)文書の歴史(記録・保管・伝来)、(2)公と私、(3)文書の責任範囲、(4)中世文書の宗教性という視点から検討した。その成果は論文として報告者の一人、デイヴィット・ロフ博士と共著の形で(11参照)発表した。この史料論的整理によって、本研究で使用する史料的前提を整えた。 2.【騎士とジェントリのアイデンティティと神話】13世紀から14世紀に、地域の農民的騎士が、州を拠所としてジェントリ的州共同体に結集し始めた。それは中央宮廷での王国共同体形成に対応した動きであった。この2つの両輪が「国民国家j形成の長い道のりを転がり始めた。彼らジェントリの州に対するアイデンティティとそれを表す神話の歴史的説明に関する論文を発表した(11参照)。 3.【騎士とジェントリのケース・スタディ】7月23日から8月4日までの在外(連合王国)研究において大英図書館、ケント州古文書館とロンドン大学歴史研究所で史料収集を行った。とくに、騎士であると同時にイギリス海峡をまたにかけた「海民」集団の指導者的家門が、ジェントリ的州共同体の成立のなかで農村ジェントリ的な騎士家族へ変質していく過程を11世紀から13世紀まで再構成した。その結果の一部は、今年7月リーズ国際中世学会で報告する。
|