2001年に熊本大学で実施した日英中世史料論のシンポジウムの報告を、日本中世史家である春田直紀助教授(熊本大学)と『古文書研究』誌上で行った。また、オスカー・ハレツキ『ヨーロッパ史の時間と空間』の翻訳と監修を行った。今年度は、11世紀の主として古英語で記載された「告知文書」の収集と解読を行い、1066年以前のジェントリ家門の抽出を、1066年以降にノルマンディから渡英した騎士家族の抽出とともに行い、20例ほどのジェントリ家族の再現を行った。ジェントリ家系としては、ノルマンディから渡ってきたヴィタールとその子孫の家系を追うことで、騎士ヴィタールが単なる戦士にとどまらず海峡世界に暮らす実務的識字能力をもつ海民的商人であること、その子孫は13世紀までに商人的性格を失い、内陸的農村ジェントリに転化していったこと、等を明らかにした。従来固定観念で見られていた騎士とは異なった実態に迫るとともに、その社会的変質のひとつのパターンを提示できた。この「発見」に関しては現在論文執筆中であり、そのアウトラインを5月の日本西洋史学会で報告する。7月3日から8月1日まで英国に滞在した。大英図書館、ロンドン大学歴史研究所で文献・史料調査を行った。7月8日から11日までリーズ大学で開催された「国際中世史学会」で107(Associations and Identities in medieval England)と207(Charters and their function in twelfhth-century Britain)の二つのセッションを経営し、後者の司会と前者ではWomen and Corrody in twelfth-century Kentと題する報告を行った。老人の扶養を修道院が行うcorrody制度の、12世紀初頭における具体的な契約形態と祈祷兄弟盟約との関係を明らかにしたのは英国でも報告者の論文が始めてである。死者と生者が同じ意識の中にいる死生観の下で、寡婦の名誉ある扶養がジェントリ的地域社会のなかで一定の手続きのもとで行われ、それが彼らの社会的結合を強化したと結論づけた。2003年3月1日に久留米大学比較文化研究所で「騎士とジェントリ」と題する当科学研究費研究による著作の概要を3時間に渡って報告する機会を得た。
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