研究課題
基盤研究(C)
本研究は、イングランド南東部のケント州を対象として、そこにおける騎士・ジェントリの州共同体の形成過程を、一次史料(原史料)と必要な二次文献を渉猟して、可能な限り全構造的に明らかにすることを目的とした。研究では地域において自他共に「生まれよきもの」とされた「よき人々」、あるいは在地的な小貴族の家系を再構成し、彼らのアイデンティティと心性を明らかにして全体史的な視点から地域社会の原生形態を明らかにした。長い11世紀と呼ぶ960年代から1130年代にかけて、ローマ教皇庁を頂点とするラテン的キリスト教世界が誕生し、そのなかでイングランドのような公式の王国と後戻りすることのない地域社会が成立したのである。イギリス人の国王に勤務する小貴族セインは地域の紛争解決においても自立的な役割を果たした。彼らの生活圏とその記憶の領域が地域であった。1066年のノルマン征服はその記憶を断絶させることなく大陸からの移住者を吸収同化して「新しいイギリス人」と地域社会を再編成した。たしかに土地保有権の階梯が徐々に形成されてはいったが、紛争解決の方法や地域社会の構造は12世紀になるまで大きな変化はなかったのである。しかし世紀中葉以降には、王権が派遣する巡回裁判官が地域社会と王権=中央を結び始め、保有権の国制化は、それまでの戦士という機能を表す騎士と生まれの良さを示すジェントリを同じレベルの社会的身分としての把握する契機を王権に与えた。制度的領域国家の出現は騎士とジェントリの共同体としての州の出現と不即不離の関係にある。こうして地方自治の母国イングランドの地域社会が生まれたのである。
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