ビブリオグラフィーや作家リスト等、体系的な整理作業が未だなされていない"Broschure"という出版物を史料として扱うために、まず、本年度は、約3週間の史料調査期間をとり、オーストリア国立図書館、ウィーン大学図書館において、対象となる作家・作品をコンピュータに入力し、データ・ベース化の基礎を作るとともに、本研究の基盤となる史料に関しては、そのマイクロ・フィルム化を進めた。また、現地では、オーストリア18世紀研究協会、オーストリア書籍研究協会の研究者や、ウイーン大学のAndrea Seidler講師と数度に渡って情報交換を行い、最新の研究動向の把握に努めた。 また、11月には、東京大学客員教授として滞日中のEngelhard Weigl教授(アデレード大学)を所属研究機関に招へいして研究報告を依頼し、その後の研究打ち合わせのなかで、ドイツ語圏という、さらに広領域の地平からの考察を通じて、都市ウィーンの出版状況の特殊性をより鮮明にしうるという、新しい知見を得た。 研究成果としては、まず、ヨーゼフ2世が導入した様々な啓蒙主義的改革が、文芸や読書習慣を含めた都市の生活文化を本質的に変化させていく過程を「庭園としての都市」(徳橋曜編『景観と環境の社会史』所収)として、また、1781年から翌年にかけてウィーンで起こった出版ブームと、首都の啓蒙知識人の精神性とがどう関わったのかという問題については、「18世紀末ウィーンにおける文芸と出版-アロイス・ブルマウアー『オーストリアの啓蒙と文学をめぐる考察』に関する一試論」としてまとめることができた。
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