近年、中世ヨーロッパ各地に見られたフラタニティー("fraternitas")という人的紐帯形態が研究上着目を集めている。本研究は、その変容過程の実態についての基礎的研究であり、具体的には修道士中心に典礼を核とする「典礼祈祷兄弟盟約」という8世紀からみられた形態(修道院フラタニティー)から俗人相互の「兄弟会」という12・13世紀から現れた形態(俗人フラタニティー)への変容過程についての基礎的研究をなしている。こうした観点から、両形態がみられたドイツ北西部のコルヴァイ修道院(現Nort Westfahren州Hoxter村)を具体的事例として、本年度は次の作業をおこなった。 第一に、本研究費補助金の海外旅費を用いて現地へ赴き、特にコルヴァイ修道院関係の写本が集中的に集められたノルトヴェストファーレン国立公文書館(Nort Westfahren Staatsarchiv)において史料所蔵状況の調査をおこなった。とりわけ、これら諸団体が死者成員の名前を記した「死者記念関係リスト」につき、現存している写本MS.132をマイクロフィルム等にて収集した。この際、関連する所領図等についても収集した。 第二に、これらマイクロフィルム、フィルムについてプリントした後、解読作業をおこなった。この解読作業は、13・14世紀に作成された写本という性格上、文字かすれ、虫食い等で、解読は容易なものではなかったが、設備備品費による電子計算機をもちいて可能な限り電子情報化した。 次年度の研究作業については、史料から得られたこの情報を基に、資料掲載人物の整理、さらにそれを踏まえて各団体と修道院本体との関係性の解析、そしてそれを通じて移行形態の実態分析をおこなうことを予定している。
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