研究概要 |
本年度の研究内容として,具体的に以下の研究計画を立て実施した。 1)ポンペイ城壁に関する従来の学説を整理した上,古代学研究所の発掘調査による新知見を従来の学説と対照させることで,ポンペイ城壁の新たな編年観を提示する。 2)ポンペイ城壁の建設時期に近いと思われる時代に建てられたイタリア古代都市の城壁との比較研究を,現地調査を通じて行うとともに,関連資料を収集する。 1)に関しては,ポンペイ城壁の第二段階である『石灰岩直立壁』の時代に本格的な城壁建設活動が行われたことを,新たな学説として提唱した。また古代学研究所の発掘調査による出土資料を綿密に検討した結果,その建設年代に関して,従来紀元前5世紀の初頭とされてきた年代観を問題視し,その年代を古くともサムニウム人によるポンペイ遺跡の占領後の前4世紀以降に結論づけた。またその建築技法に関しては,従来言われていたようにギリシア人の建築というよりも,ギリシア文化の影響を表面的には受けつつも,建築技術においては発展が遅れていたサムニウム人の手によるものとの仮説を新たに提唱した。これは先に述べた出土遺物(主として薄手土器=Ceramica a Preti Sottili)の年代観とも整合するものである。 2)に関して,ポンペイ城壁の第一段階とされるいわゆる『パッパモンテ城壁』に焦点を絞り,この種の石材でできた城壁の類例を調べた結果,カンパニアでは唯一ポンペイ遣跡から約20km離れたフラッテ(Fratte)遺跡において,この石材の使用例が認めらた。しかしそれらはいずれも神殿等の建物の礎石として利用されているに留まり,城壁のような防禦施設における類例は,調査の結果からは検出できなかった。
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