研究概要 |
古代イタリア都市城壁の研究対象として,本年度も引き続きイタリア南部カンパニア州のポンペイ遺跡を標準例として取り上げ,以下の研究を行った。 1)諸段階に亘って発展したポンペイ遺跡の城壁中,現在の城壁形態の基本タイプである切石積み城壁の石灰岩使用部分と凝灰岩使用部分の分布を,ポンペイ城壁全般にわたり研究し,石灰岩使用部分の割合が一般に主張されているよりも小さく,石灰岩を単独で使った城壁の高さから,防壁としては十分な機能を果たすことができず,その次の凝灰岩使用時期との時期差が通説よりも短い可能性があることを仮説として提唱した。 2)切石積み城壁はその次の段階で乱石積み城壁に発展していくが,その乱石積み工法にもいくつかの段階が設定されうる。本年度の研究によりその最初期の段階では角が削られた溶岩以外の石材は使われないこと,またそれらは主として城壁の修復用に用いられていたことが明らかになった。 3)乱石積みのその次の発展として,大きな溶岩の岩を打ち割って作った石材が用いられる時期段階を設定し,それらは主として塔の建設に用いられていることを,使用モルタルの種類から特定し,2)との間で時期差が見られるとの仮説を提唱した。 4)さらに次の段階として,溶岩以外の石材と煉瓦等の壁材が混合する段階を想定し,それらはローマ時代(前80年)以降,城壁の修復に際して用いられていることを明らかにした。とりわけ古代学研究所による発掘調査により検出された第IX塔がその典型例であることを示した。 以上の研究により,前3世紀から前1世紀までのポンペイ城壁の発展を,段階をより詳細に設定して考察するための基盤を確立した。
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