本研究は、弥生時代を主対象とし、集落や墓地の構造に反映される人間集団の編成原理、土器様式の構造や伝播現象に反映される集団間関係、祭祀に反映される価値観のあり方に着目し、それらの時間的・空間的変化を事象ごとに細かく分析した上で、その成果を総合することによって、当該期の社会全体の構造変化や集団間の政治的・文化的関係の変化相を明らかにする事を目的とした。 弥生時代の大規模環濠集落の評価について検討し、農耕市民都市・集住・多職種共生・農閑期分業・専業工人などの概念の再検討から、近年盛んな弥生都市論が妥当ではないと結論付けた。 一つの土器様式の様式構造に反映される人間集団の価値体系、土器様式間の空間的関係の時間的変化、土器の伝播現象から伺われる集団間関係の変化とその原因について分析し、それらを、集落や墓地の構造に反映される人間集団の編成原理とその変動と総合することによって、当該期の社会全体の構造変化や集団間の政治的・文化的関係の変化相を明らかにする見通しを立てた。 弥生時代後期から古墳時代初頭にかけて、社会の変化とりわけ階層化と地域的統合と信仰形態の変化が急速に進行した理由を、前段階すなわち弥生時代社会が稲作農耕を主生業とする社会として安定して以来、後期後半に至るまでの内的要因・外的要因にまで遡ることによって解明する基礎作業を行った。 さらに、婚姻制度・社会集団形態・社会組織の発展段階における大きな画期と政治組織の画期とが大枠で対応すると言うエンゲルスの『家族・私有財産・国家の起源』モデルの妥当性を検討し、首長制、擬制的同族関係、部族同盟、「世帯共同体」などの概念を検討し、日本古代における基層社会の出自原理、家族形態とその発展系列、世帯共同体の存否、家父長制の成立、などの問題について検討を加えた。
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