本研究は琉球列島の先史文化の位置付けを図るために、環中国海地域に展開する各地域文化との比較研究に取り組むことを目的とした。琉球列島の南には、大陸部に隣接し台湾島、海南島などの島嶼域が存在し、大陸部においても福建・広東を中心とする東南中国は、多数の島嶼を包括する沿海側と河川水系によって結ばれた内陸側に大別することができる。こうした沿海地域あるいは島嶼域に共通した考古学研究の課題をあげてみると、まず島嶼、沿海という生態系の中での文化適応の問題があり、さらに地域間交流の様相として、大陸部(内陸側)と島嶼間、沿海地域間の文化関係の比較が注目される。 そこで、本研究ではまず従来の琉球列島先史文化と周辺地域の比較に関する研究状況を整理した。そして東南中国の先史文化を比較研究の対象とし、まず東南中国の先史文化を4期(1〜IV期)に時期区分しながら、その変遷と地域間交流の様相を検討した。東南中国の先史文化は高温多湿な気候と沿海・島嶼域であるという自然環境に即しながらも長江流域との接触・融合が認められた。 研究の結果、IV期(紀元前2000年前後)に東南中国沿海側において文化の活発な動きを確認することができた。またIV期以降は、居住形態の多様化、海洋資源の利用については安定した採集社会の中での多様化が浮かびあがり、これらの点がまさに琉球列島先史文化との比較研究の接点になると考えた。そして、同時期における琉球列島先史文化の動向と比較することが問題となるが、同時期の沖縄では地域文化の個性化が進むと同時に日本本土の縄文起源ではない可能性のある文化要素がみられる点も重要であると考えた。
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