本研究課題における2001年度の研究では、研究実施計画通り、(1)エクアドル南部高地に位置するインカ国家の行政センター、ミラドール・デ・ムユプンゴ遺跡の発掘調査によって得られた諸データの整理・分析(春季・秋季・冬季)、(2)ムユプンゴ遺跡を周辺域のコンテクストに位置付けるためのジェネラル・サーヴェイ(夏季)ならびにそのデータ整理・分析(秋季・冬季)が実践された。 (1)の研究を通し、まず同遺跡の建設が途上で放棄されていることが再確認された。さらに、建設労働者(ミターヨ)が、遺跡中心部に居住しながら労働にあたっていたこと、これらの労働者に対してインカ国家が生活の基盤となる物資(特に食生活に関わるもの)を与えていたこと、これまで武器として捉えられてきた物質(ボレアドーラ)が、建設と関連した道具であることなどが明らかになりつつある。一方、約50日間にわたり、エクアドル共和国文化庁の許可の下で実施された(2)の調査・研究では、ムユプンゴ遺跡と海岸間において、新たな行政センター、複数のインカ道、水をめぐる施設(バーニョ・デル・インカ)、インカ国家の畑、多くの墓等、インカ期に属する重要な諸遺跡(施設)が確認され、極めて大きな成果を得た。遺跡のコンテクストから判断すると、インカ国家が、全アンデス地域において必要不可欠の儀礼品スポンディルス貝の採取が可能なエクアドル海岸部に、直接的にアクセスしようとしていたことが明瞭に窺われる。しかし、中心的行政センターであるムユプンゴは建設途上で放棄されているため、インカ国家による海岸部支配・統合は、当初順調に推移していたにも関わらず、何らかの要因によって大きな問題に直面したものと考察される。
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