本研究課題は、エクアドル南部高地に位置するインカ国家の行政センター、ミラドール・デ・ムユプンゴ遺跡出土の遺物整理・分析、そしてアンデス西斜面を中心としたムユプンゴ遺跡周辺域におけるジェネラル・サーヴェイの実施ならびにそのデータ整理・分析を基盤としてなされたものである。この研究の主目的は、エクアドル南部高地に中心都市トメバンバ(現クエンカ市)を配していたインカ国家と全アンデス地域で必要不可欠な儀礼品ムユ(スポンディルス貝)の採取可能なエクアドル海岸部の関係を明らかにすることにあった。 遺物整理・分析によって、ムユプンゴ遺跡が建設途上で放棄されていること、300点以上に及ぶ、建設道具が出土していること、建設職人に生活の基盤となる物資(鍋類等の土器)が配給されていたこと等が明らかになった。 この研究課題における最大の成果は、ムユプンゴ遺跡西方(標高3200〜1800m)のジェネラル・サーヴェイを通し、新たな行政センターや国家が管理していた畑地、水をめぐる施設(バーニョ・デル・インカ)、おそらく墓であったと考えられる5千以上の土壙、そして海岸方向に向かう3本のインカ道が確認されたことである。こうした施設が、ムユプンゴー海岸間に配されていたことにより、インカ国家はエクアドル海岸部に直接海域の支配・統合に向かっていたという、これまで確認されていない新たな状況が確認されたことになった。 今後、新たに検出された遺跡に関して、さらに詳細な調査を進めていく必要がある。
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