本年度は、安行式直前の紐線紋粗製土器を主に検討した。粗製土器に顕著な凹紐線紋が精製土器にも共通する紋様であることを前年度につきとめたことから、理解が混乱している曽谷式を凹紐線紋の有無で明瞭に定義できることに思い至り、凹紐線紋をもつ大波状口縁深鉢・平口縁深鉢の精製土器と、凹紐線紋をもつ平口縁深鉢の粗製土器が、安行式直前の曽谷式の基本的な器種であると再定義した。そして、再定義に立って考えると、曽谷式に実際に共伴する凸紐線紋粗製土器と凹紐線紋を欠く各種精製土器は実は曽谷式とは別範疇の土器と見なすべきであると判断した。この凸紐線紋粗製土器が、曽谷式より古い時期から存在することは先学の研究で明らかになっているので、曽谷式の凹紐線紋粗製土器が新出の土器であると結論づけた。 そこで、凹紐線紋粗製土器の起源が問題となるが、曽谷式より古い土器群では凹紐線紋粗製土器がないのであるから、粗製土器どうしの比較から起源を探るのではなく、凹紐線紋が精製・粗製に共通することに着目して、曽谷式より古い精製土器に凹紐線紋の有無を検討すると、加曽利B3式の精製土器の一部に凹紐線紋があることと、加曽利B2式にはないことを見いだした。つまり、加曽利B3式には凹紐線紋粗製土器がないのであるから、凹紐線紋の伝統を把持する土器製作者集団が新たに凹紐線紋粗製土器を作り出し、かつ、凹紐線紋をもつ精製土器の製作を継続したのが曽谷式といえるであろう。加曽利B3式期の凹紐線紋を欠く各種精製土器や凸紐線紋土器およびその他の粗製土器、曽谷式に伴う凹紐線紋を欠く各種精製土器や凸紐線紋粗製土器およびその他の粗製土器は、別の土器製作者集団が担当した土器であることが新たに見通せるようになった。要するに、粗製土器の変異が同時代の土器製作者集団の違いを探る手がかりとなり得ると思い至ったのである。
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