本研究は、近年のコンピューターや測量機器の急速な進歩にもかかわらず、それらを充分に生かした発掘遺構計測法が確立されていない現状に鑑み、機器の発達と普及に対応した新しい計測方法の確立とその体系化を図ろうとするものである。 上記の目的を達成すべく、まず、過去から現在にいたる各種の発掘遺構計測法に関する収集・整理作業をおこなった。平板測量・遣方測量からトータルステーションやGPSを用いた測量まで、計測法の変遷を整理し、それぞれの得失を比較する作業である。あわせて、各地における遺構計測法の実態を把握するための資料調査を実施した。 そして、そこで明らかになった問題点に基づき、現在考えうるもっとも効果的かつ精度的に安定した計測法として、トータルステーションまたはGPSによる実測基準線の設置、複数の調査員による並行実測、という手順を開発した。いわば、遣方測量の長所を生かしつつ、精度・能率両面の飛躍的向上を図った方法といえる。 さらに、標高の測定作業を簡便かつ統一的な手法でおこなうため、目盛りの振り方を通常と逆にした標高測定シールを開発した。これによって、高低差が大きく、年次や日時を異にする調査であっても、統一した標高表記が可能となり、現地作業や以後の室内作業の能率向上に大きく寄与することができた。 また、地形測量についても、トータルステーションを活用することにより、平板測量の問題点を克服した方法を実用化した。そして、有用性をテストするため、標高約1600mに位置する江戸時代の宿坊(小篠宿)跡の測量調査を実施し、その成果を公刊した。使用可能な機器の数量や大きさなど、制約の多い条件下で、広大な面積の遺跡や遺構を迅速かつ正確に計測する方法として、今後、幅広い方面での応用が期待できる。
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