平成13年度においては主として、奈良県桜井市・珠城山1号墳出土剣菱形杏葉、同県御所市・巨勢山75号噴出土楕円形鏡板付轡・剣菱形杏葉、三重県亀山市・井田川茶臼山古墳出土f字形鏡板付轡・楕円形鏡板付轡・剣菱形杏葉・楕円形杏葉、京都府長岡京市・井ノ内稲荷山古墳出土楕円形杏葉、岡山県津山市・中宮1号墳出土f字形鏡板付轡、静岡県袋井市・大門大塚古墳出土f字形鏡板付轡・剣菱形杏葉などの調査を行った。 まず、形態的調査については、細部の様相は非常に多様であり、同じ鏡板付轡の左右の鏡板の形態、あるいは同じ古墳から出土した同形態の複数の杏葉においても、全く同一の型紙から製作されたと確定できるものはなかった。しかしながら、全体的なプロポーションをみると、特に剣菱形杏葉において、時期を越えた(6世紀初頭から後葉)強い共通性(企画性)が認められた。ただし、剣菱形杏葉とセットになると考えられるf字形鏡板については、これまでのところ、そうした共通性は明確ではなかった。 製作技法の調査においては、飾鋲の有無などについて調査したが確実に飾鋲と認識できるものは無かった。また、同じ鏡板付轡の左右の鏡板、あるいは同じ古墳より出土した同形態の杏葉でも、打たれた鋲の数はそれぞれが異なること、さらに、X線撮影により穿ち直した鋲孔の認められるものの存在することから、製作の細かい段階では、工人が個別に対応していた様相が伺えた。また、鋲の形態(鋲頭の直径など)は、時期を越えてほぼ同一であり、企画性を持って大量生産されていたのではないかと推定できる。 平成14年度は、今年度の調査結果を踏まえ、調査対象を増やしつつ、これを深化させていきたい。特に、剣菱形杏葉の企画性については、さらに追究していきたい。
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