従来、平安時代後半期以降の古訓点資料は前代の訓点を忠実に写すこと(移点)によって前代の言語を伝えていると言われてきたが、本研究では、必ずしもそうではなく、平安時代後半期の訓点資料であっても、前代の訓点を忠実に写したものとは限らず、訓点の転写に当っては同時代的要素の混入もしばしばあったことを明らかにしようとし、このためにまず本年度はそのような可能性のある資料を博捜した。そのために1回の調査旅行を行い、マイクロ写真の焼付を行った。その結果、次のようなことが明らかになった。 1 因明関係の訓点資料には平安時代の前半期の訓点を忠実に写したものと、それを改変した箇所を含むものが現存すること。 2 1に挙げた2種の訓点を比較すれば、平安時代前半期の訓点を伝承の過程で改変した箇所が明らかになり、前述の同時代的要素が何であるか、具体的に指摘できること。 この観点から具体的にデータを採取し、備品として購入したパソコンを使用して、個々の箇所について検討を加えた。その成果は現在整理中であり、近く何らかの形で公表する予定である。また、その同時代的要素の背景にある言語事象についても検討中である。さらに、同様の様相を呈する資料または資料群を見出してその実態を明らかにしようとしているところである。
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