本研究では、16世紀末から17世紀初頭に掛けて日本での布教の為にイエズス会によって生産された、いわゆる「キリシタン文献」のうち、漢字仮名交じりで印刷された「キリシタン版国字本」の後期版全てを対象とした字体総合データベースの構築を完了した。具体的には、「さるばとるむんぢ」「落葉集」「ぎやどぺかどる」「朗詠・雑筆」「太平記」である。 このデータベースによって、漢字字書である「落葉集」と、それに基づいて組版された「ぎやどぺかどる」の字体対照・計量的操作が初めて可能になり、ここから、後期キリシタン文献国字本の用字・組版方針が極めて意図的な整理を経ている事を論証する事が出来た。その用字規範は「定訓」に基づいた整理であって、特定の漢字と特定の日本語形態素とが対応した一種の「常用漢字」体系を作り上げ、その中で用字・組版が進められている事、且つ「異体字」と「別字」に一線を画する字体認識が行われた上で金属活字が準備されていたことを明らかにすることができた。但し、この「常用漢字」用字体系は漢字制限ではない事を、固有名詞など稀にしか出現しない漢字であっても、躊躇せずその集合への追加がなされた事によって示した。 この概括は既に論文として公刊済であり、詳細は本研究の報告書として公刊した。 このデータベースは、最も大部のテキストである「太平記」の異体字・合字までも区別した電子化を含んでいるが、これは、今後、日本側の「古活字本」出版に於ける用字・組版規範との対照研究を進める事を意図したものである。
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