研究概要 |
日本語方言の歴史的重層性を、関東を横切る方言境界線(関越線)と、日本列島を東西に横切る方言境界線(気候線)の成因を考察することによって解明し、不明であった日本語形成史の一端を明らかにした。 日本語の成立背景には、その古層として「モンスーン・アジア(M.A.)文化領域」の言語が存在している可能性が極めて高く、今後の日本語系統論、日本語史研究、方言形成史研究では、このM.A.文化領域の言語を視野にいれて研究していく必要があること、また、世界的規模での文化人類学的研究においても、この地域の研究は重要であることをはじめて指摘した。なお、個々の研究成果としては以下の成果を得た。 1、関越線、気候線を持つ方言分布を新たに複数指摘した。特に関越線はその数と質において、糸井川・浜名湖線を大きく上回ることを示し、それがより重要な方言境界線であることを明らかにした。 2、関越線は、「奥東京湾-柏崎線」「柏崎-銚子構造線」「利根川」という地理的障害によって形成され、その成立は少なくとも縄文時代後期まで遡る可能性が高く、それの影響は文化全般にも影響した。 3、気候線は、朝鮮語・中国語での方言境界線にも連続し、言語だけでなく気候・文化全般にもその境界が認められる。 4、M.A.文化領域には「類別詞」などの言語的共通性があり、また、文化人類学的にも共通した特徴が多く認められる。 5、新たな言語史理論として「成層論モデル(stratification model)」を提示した。 6、モンスーン・アジア領域の諸言語の系統的分化について、仮説を提示した。 今後の新たな展開として、(1)言語特徴の分布がMA領域を越えてアフリカ付近まで及んでいること、(2)「モンゴロイド」の拡散過程とも一致していること,(3)東アジアの音韻対応の可能性、などが指摘できるから、本研究が、モンゴロイドの言語史としても世界規模での文化人類学的研究においても有効で発展性があることが確認できる。
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