本研究は、談話資料を利用して、アスペクト表現の研究を行ってきた。 二階堂は、大分方言の談話資料内に出現するアスペクト表現を調査してきた。結果として、大分県は、九州の他県に比較すれば、アスペクトの対立をよく残していることが確認された。 さらに福岡での談話資料を収録し、その中のアスペクト表現をみていった。過去のアスペクトに関する科研調査では、関西を除く西日本では、アスペクトの対立がゆらいできている、すなわち、進行相を表すヨル形の領域にトル形が侵入しつつあるとされているが、調査結果においては、20代若年層のみならず、50代においても、まだヨル・トルのアスペクト対立をよく残していることがわかってきた。 有元は、山口方言を中心的な対象とし、談話資料に現れるアスペクト表現を調査・分析してきた。そこには、文レベルのアスペクト表現には現れないような制約(確信度・目撃性・証拠性・焦点化・他動性・共感度)が関連していることが判明しつつある。従って、それぞれの制約をパラメータとして捉えれば、「話者認知スケール」として一般化することができるであろう。 さらに、本研究の発展として、多方言話者の談話におけるアスペクト表現について調査を開始した。まだ明らかな結果は出ていないが、社会言語学で言うところのコード変換やノンバーバルコミュニケーションにも関連する研究であると考えられる。
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