3年間にわたる研究の最終年として以下の知見を得、また建部綾足の伝記を、「建部綾足略年譜(未定稿)」にまとめた。 1.建部綾足の絵画における業績を調査した。綾足は早い時期に画譜を刊行したことで知られるが、その中で最初の作である『寒葉斎画譜』について、従来は初版本の残存例が少なく、原態が不明であったのを、新たに複数の在外初版本を確認し、ほぼ原態を把握できた。また『建氏画苑』『漢画指南』についても、諸版の整理ができた。 2.綾足が晩年に力を注いだ『万葉集』研究については、たとえば『詞草小苑』は、真淵の『冠辞考』や長流の『枕詞燭明抄』の影響があるが、この書の執筆・編集で綾足が意を用いたのは、枕詞の語源を新たに探ることよりも、むしろ擬古文を制作する時の手引きとなることであり、研究書であると同時に、実用書的な色合いが濃いことを指摘した。 3.綾足には、『歌文要語』、『はし書ぶり』、『後篇はしがきぶり』など、和語(古語)集あるいは和文用例集の編著が多い。これは、歌文の創作を国学研究と不可分とする、綾足の国学観に基づいたものであることを指摘し、それが『西山物語』『本朝水滸伝』などの読本制作にもつながっていることを指摘した。またそれらの和語集あるいは和文用例集の編集・刊行が、文章(和文)研究史における先駆的な試みであることを明らかにした。 4.素輪(前橋)・雲郎(富岡)等を中心とする上毛の門人との接触を再検討し、宝暦13年からの綾足の片歌唱道に関して、信濃の門人連とともに上毛の門人連の存在が、片歌理論形成の重要なモメントとなっていることを明らかにした。
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