本研究の主たる目的は、「万葉集』の新たな全訳注の完成を目指すところにある。訓詁を主体とする伝的な方法に、表現論と称する新たな視点を取り入れ、従来のものとは違う斬新な注釈を作成することが、ここでの最終目標になる。平成13年度は、研究計画の初年度ということもあり、基礎的な準備作業に時間を割いたために、巻3までの訳注を完成するにとどまった。なお、データベース化が将来果たせるよう、訳注はすべてパソコン上で、テキスト形式によりて作成している。 なお、訳注をすすめる中で得られた知見の一部を、著書『額田王』、編著書『万葉への7文学史 万葉からの文学史』として刊行した。前者は、表現史の視点かち額田王の和歌の作品論的研究を試みたもの、後者は古代和歌の展開の様相を、物語世界との関連をたどりつつ論じたものである。単独の論文としては、「古代吉野論のために」を執筆、古代の吉野がもつ特殊な位置をあきらかにした。また「景戒と憶良と」を執筆、「病」をめぐる『日本霊異記』撰者景戒と山上憶良との姿勢の違いを示すことで、両者の精神史的な位置をあきらかにした。 また、中国北京の日本学研究中心で開催された国際源氏物語研究集会に参加し、「魂と心と物の怪と」と題する研究発表を行い、『万葉集』に現れた「魂」と「心」の問題が、『源氏物語』の生霊の問題にまで通底していることを論じた。
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