本研究の主たる目的は、『万葉集』の新たな全訳注の完成を目指すところにある。訓詁を主体とする伝統的な方法に、表現論と称する新たな視点を取り入れ、従来のものとは違う斬新な注釈を作成することが、ここでの最終目標となる。平成14年度は、研究計画の二年目にあたるが、巻6までの訳注を完成するにとどまった。基礎的な本文校訂作業、訓の確定、諸注の整理等に予期した以上の時間を必要としたために、当初の到達目標を大幅に下回る結果となった。来年度は本研究の最終年度にあたるが、巻10までの完成を目指すことに目標を修正したい。なお、データベース化が将来果たせるよう、訳注はすべてパソコン上で、テキスト形式によって作成している。 なお、訳注をすすめる中で得られた知見の一部を、「魂と心と物の怪と」「山上憶良「子等を思ふ歌」について」「「春愁三首」を読む」などの論文として発表した。また、古代文学会例会において「「記紀」に見るヤマトタケルの東征」の題で口頭発表を行い、その内容を同題で『解釈と鑑賞』に掲載した。魂と心の関係を探ることで、古代人の精神史の一端を明らかにし、また山上憶良における「宿縁」としての親子関係の意味を考察し、「春愁三首」の表現が古代の和歌としていかに独自であるかを論じた。口頭発表では、古代の文学に東国が占める位置の特殊性について論じた。 『万葉集一、二』(週刊 日本の古典を見る)の監修を行い、最新の『万葉集』研究の成果をわかりやすく示した。
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