本研究の主たる目的は、『万葉集』の新たな全訳注の完成を目指すところにある。訓詁を主体とする伝統的な方法に、表現論と称する新たな視点を取り入れ、従来のものとは違う斬新な注釈を作成することが、ここでの最終目標となる。平成15年度は、研究計画の最終年度のあたるが、結果的に巻9までの訳注を完成するにとどまった。しかしながら、汗牛充棟もただならぬ研究史の蓄積をもつ『万葉集』の全訳注を三年間で完成することには無理があり、これを巻9まで完成させえたことは、実績として誇ってよいことではないかと考える。とりあえずは、その一部を報告書として提出し、残りの完成をできるだけすみやかに果たしたいと考えている。データベース化が将来可能となるように、訳注はすべてパソコン上で、テキスト形式によって作成している。 なお、訳注をすすめる中で得られた知見の一部を、「万葉集と古今集」「環境、言葉、文学」「古代文学の中の『源氏物語』」などの論文として発表した。最初の論文は、『万葉集』と『古今集』の表現の違いを論じたもの。二つ目の論文は、『万葉集』に歌われた世界がいかに現実と食い違っているかを論じたもの。最後の論文は、『源氏物語』の「いろごのみ」を『万葉集』の歌と対比しつつ論じたもので、韓国外国語大学で開催された『源氏物語』国際会議における口頭発表をまとめたものである。 放送大学の印刷教材『上代の日本文学』を編集・刊行し、本研究の成果を縦横に取り入れることができた。
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