○本年度は能楽雑誌の基礎的調査を中心に研究を実施する予定の年度であった。 1.明治35年創刊の『能楽』復刻版全18巻を購入し、大正10年までの地方の状況を東京のそれと継続的に対比する作業を開始した。 2.早稲田大学演劇博物館において能楽雑誌の収蔵分を調査し、このうち明治42年創刊の『能楽画報』の目次及び地方能楽欄の複写を行った。『能楽』の情報を補完する貴重な資料であるが、量が膨大なので複写作業は完結せず、来年度も継続して行う必要がある。 3.年度中に復刻された『明治天皇紀』から能楽関係記事を収集する作業を完成、平成15年度に予定していた文献調査の一部を先行させることが出来た。 4.補助金交付以前から従事してきた金沢能学会の百年始の編纂が完成、近代能楽史の地方展開について府瞰的な見通しが得られた。 ○これらの調査・研究の進展により、以下の知見が新たに得られた。 (1)明治の能楽復興は10年代の保護期と30年代の自立期の二つの山に分けられ、20年前後には演劇改良論議の影響を受けること。 (2)金沢では20年代に今様能狂言との確執から能楽師が結束する機会(石川県能楽会)が先行し、保護者が前面に出る金沢能楽会の設立がこれに続くこと。 (3)能楽は衰退からの復興、演劇は退廃からの改良、互いにライバル視し合ったが、共通の合言葉は「高尚優美」であったこと。 (4)能楽復興の広がりを確認するのに各地の能楽会の設立趣意書が有効であること。 (5)その典型としての「金沢能楽会設立趣意」の諸本の把握と原態についての推定がほぼできたこと。
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