今年度は、散逸物語研究の環境整備のために、大学院生等の協力を求め、関連資料・論文等の収集・整理をすすめる一方・散逸物語データ・ベースの構築に向けても、基礎となる目録のデータ入力を行った。 具体的な研究成果としては、2本の論文がすでに校了となっており、刊行を待つばかりとなっている(裏面を参照)。『今とりかへばや』についての論文では、「宇治」を舞台とする女中納言-宮の宰相-四の君の三角関係に、<二人妻説話>の面影があることを確認しつつ、それが散逸『橋姫の物語』を意識した設定であったらしいことを、詳細に考察した。また、散逸物語『よそふるこひの一巻』についての論文では、題号・内容について、従来の研究を徹底的に再吟味し、新たに参照すべき資料を提示することで、これを一巻読み切りの短編物語と見るべきこと、内容的には『源氏物語』における光源氏と玉鬘との関係にヒントを得た蓋然性が高いことなど、きわめて斬新な結論に到達した。 総じて、全般的な研究環境の整備には、なお多くの時間と弛まぬ努力・蓄積が必要であると認めざるをえないのであるが、個別的な問題点の解明については、研究環境のさらなる整備を待ちつつも、別途すすめてゆくことも可能である、との感触を得た今年度であった。
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