研究課題の第一である「散逸物語研究データ・ベースの構築」に関しては、特殊なソフトによることなく、広く普及している「マイクロソフト・エクセル」を用いることで、使用者の目的に応じて自在なアレンジが可能なようにとの配慮のもと、目録のデータ入力を3年間継続して行い、最終的に、3種類の目録を相互に検索できる環境を整えることができた。ただし、広く研究者の使用に堪えるようにするためには、さらに大掛かりな周辺情報・派生情報とのリンクが是非とも望まれるところであり、研究の規模として、今回はとうていそこまで及ばなかったため、その点は今後の課題である。 第二の課題である「散逸物語を組み込んだ<新しい物語史>の構想」については、平成14年度の熊本大学文学部、平成15年度の鹿児島大学法文学部における、二度の集中講義の機会をとらえて、その講義資料を作成するなかで、さまざまにアイディアを練ることができた。今後は、これを基礎としながら、より発展させたかたちで、論文ないし著書として公にすることを目指したい。 第二の課題と関わる個別論文は、三年間に四本を発表することができた。そこでは、『よそふるこひの一巻』『とりかへばや』『ひとりごと』などを取り扱っているが、いずれも、限られた資料をより精密に読み込みつつ、広く周辺の関連資料にも目を向けることで、従来にない新知見を提出しており、こうした地道な研究の蓄積が、「<新しい物語史>の構想」にとっても重要であること、言を埃たない。
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