まず、資料的には、日本国内では容易に収集できない戦前の邦文資料が韓国に相当保存してあることが分かった。 戦前資料の復刻版、国内各研究機関所蔵資料及び韓国側資料を含めて、収集した資料の一部分析の結果、次のことが明らかになった。 昭和期の日本文壇雑誌に現れた日本人作家の「朝鮮」に関わる作品や「朝鮮」人作家の作品を比較した結果、日本人作家のものは植民地朝鮮に同情的であったり、日本の権力による朝鮮人虐殺批判であり、朝鮮人作家のものは、抑圧される朝鮮農民や貧民の描写、観念的な革命詩などである事が分かった。 中島敦、湯浅克衛、張赫宙らに的を絞った個別研究の結果、日本人作家の中には、当初は「朝鮮」に対して同情的であったが、次第に日中戦争という状況の厳しさの中で、時局へ迎合したり、「朝鮮」問題から撤退を余儀なくされた作家がいたこと、一方日本語で小説を書いた「朝鮮」人作家の中には、当初、封建制批判であったものが、次第に日本主義を余儀なくされたものがいたことが改めて確認できた。 今後の課題として、収集した資料の分析・公開を進めると共に、「朝鮮」以外の旧植民地、占領地へ対象を広げ、日本近代文学と旧植民地、占領地との関係の総体及び地域的特徴を明らかにすること、また、情報の共有、歴史認識の共有のためにも、当該テーマに関わる国際共同研究の必要性が明らかになった。
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