いわゆる五摂家でも筆頭の家柄である近衛家に伝来する、数多くの古典籍および古筆切他を所蔵・管理している財団法人陽明文庫において、当文庫の所蔵する古筆切および古筆切臨摸に関する学術調査・研究を実施した。 平成13年度に調査研究の対象としたものは、近衛家の当主である予楽院・近衛家熈(1667〜1736)による古筆切臨摸作品を中心に収録する『近衛家熈写手鑑』(重要美術品)とその関連資料『大手鑑』(国宝)の2点である。 前者においては、特に、所収する伝小野道風筆「継色紙」の臨摸断簡に注目して、詳述な調査研究を実施した。この研究成果については、「『継色紙』に見る付着鏡文字-予楽院臨摸『継色紙』の新見解-」(『大東書道研究』第10号、大東文化大学書道研究所、平成14年3月)という論文で、まとめることができた。古典籍では、相手側頁に文字が付着することがある。稿者はその反転した文字(鏡文字)を「付着鏡文字」と称しているが、これは稿者の命名したテクニカルタームである。従来、「継色紙」には、この付着鏡文字が存在するとは確認できていなかったが、今般、その事例を2件報告し、併せて、予楽院による「継色紙」臨摸断簡にもその復元が見られると考察したものである。 後者においては、下帖より熟覧している段階である。特に、料紙に関しては、従来提唱されていないことが何点か判明し得たので、現在考察を進めている状況である。いずれ論文等によって、報告したい。 両者とも、古筆資料をもとに国文学・歴史学・書誌学・書学書道史等の学際的な研究を包括する「古筆学」にとって、基礎的な学説を提供するものである。
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