平成14年度は、陽明文庫蔵の『大手鑑』(国宝)・『無銘手鑑』・『近衞家熈写手鑑』(重要美術品)に所収する、個々の断簡について、基礎的データを集積した。論考については、以下のものを試みるに至った。 陽明文庫蔵『大手鑑』(国宝)所収、伝小野道風筆「小島切斎宮女御集」の料紙表面には、明瞭な状態で、稿者の提唱する「付着鏡文字」が写っているのを確認した。前部にあたる相手側頁の一葉(個人蔵)に、その元になる文字を有するのを確認できる。この「付着鏡文字」の研究は、他の古筆切に対しても応用ができ、それを反転させることによって、散逸断簡を蘇生させることもできるのである。 陽明文庫蔵『大手鑑』(国宝)には、伝藤原佐理筆古写経切が連続して二葉押されている。そのうち、先に所収する「淡藍紙」については、先達の報告において、未詳古写経の断簡として取り扱われてきた。今般、当研究において、大覚寺蔵伝弘法大師筆「金塵縹紙金光明最勝王経切」(天平時代)のツレと認定し、漉染め技法による紙上に金塵を存する料紙を使用していると報告した。あわせて、書写内容から推して、三部分を寄せ継いで一葉に見立てていることも判明した。また、架蔵手鑑『筆鑑』に、極札を存しないものの、一連の「金塵縹紙金光明最勝王経切」のツレと認定しうるものが二葉も存することを確認した。それらは、伝藤原佐理筆淡藍紙古写経切と直接続く箇所もあるので、極めて重要といえよう。
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