本年度は、3年度、最終年度に当たるので、補充的な観点から行った。すなわち、愛知県足助資料館蔵の台本、及び東美濃ふれあいセンター保管の台本を再調査、160点を撮影収集した。また、台本の所有、使用者である振付師匠である松本団升、市川福升、吉田茂美よりの台本の性格、演出伝承の経緯などの聞き取りを行った。猶、三河一宮の稲垣金二、作手の柴田功両氏より聞き取りを行う期日も決定していたが、目前で相次いで他界され、実行できなかった。こうした現実から伝承の消滅危機を実感し、早急な調査の必要性を強く感じた。団升は200点以上の作品の演出を所有、所有台本192点あるとのことであった。目録一覧を複写させてもらった。また、参考に新潟県柏崎市女谷の綾子舞の台本を調査した。 三年間で、東濃・南信・三河の代表的な台本群を一応調査・収集し、地芝居台本の特徴を把握することができたと思う。江戸時代の古台本は村役や若連が管理するものが残っているが、明治中期以降は地役者で振付師匠が所有する台本がほとんどで、自らが台本を所有して演出・演技指導を行った有り様が窺われた。演目は、勿論義太夫狂言が主流であるが、現在中央では上演されないもの、大正・昭和期に中小芝居で盛んに上演されたもの、旅芝居のみで上演されていたもの、全く独自のものなどがあり、地芝居はその地域や周辺都市に巡ってくる旅芝居と関わりが深いこと、この地域は名古屋あるいは上方の文化圏にあり、特に上方の中小芝居、旅芝居の姿を窺い知ることができることが明らかとなった。また、この地域には、実録・講談や浪曲を元に独自の台本を書いて、諸国を巡る旅一座があり、地芝居に残る独自作品にはこうしたものもあることも知られた。 まだ、この地域には台本がかなり残っているので、今後も調査を続行したい。
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