本研究は、これまでほとんど研究が進展していなかった「仏舞」の全貌を解明しようとするもので、それは次の3点において大きな成果をあげた。 I.我が国に現在、伝存する「仏舞」は、秋田県から島根県に及ぶ11の社寺に伝えられている。この内、「行道」のみで舞を伴わないものが2社寺、形の崩れた亜流に属するものが2社寺、田楽等の多くの曲目の中の一つのパートとして奉納されるもの、或いは劇仕立てで仏面を有さない、科白がある等のものが5社寺、そして「仏舞」のみを独立させた古雅な形で奉納されるものが2社寺ある。 すなわち、現在、全国の11の社寺に「仏舞」が伝えられていることを臨地調査によって確認した。その内、古い形を残すものが2寺あり、とりわけ完全に近い形で伝えられているものが福井県福井市糸崎町に伝存するものであることが判明した。 II.「仏舞」のルーツは、ペルシャなどの中央アジアを経た楽曲・舞楽が、天竺の仏教と結び付き、「菩薩舞」として西蔵の天竺系寺院に伝わり、1300年前に長安に齎された。そして観音信仰の一大拠点であった浙江省の普陀山や寧波の阿育王寺に伝わり、海路を経ておよそ1250年前に糸崎へ齎された道筋が明らかとなった。 また、糸崎の「仏舞」の舞人の持つ「ダゴ(打鼓)」は、およそ1240年前に描かれた敦煌莫高窟の壁画に見出せ、西蔵の天竺系寺院では「カルガ」という名称の楽器として使用されている。 III.舞人の暗黙知の身体動作をデジタルビデオに取り込み、不明の動作の解明と中国奥地に伝わる類似の舞の比較分析を進めており、その一部はすでに論文によって活字公開しており、新たな知見等については、本年8月に中国雲南省で開催される国際学会で発表する予定である。 以上
|