第二年度である本年も、おもに京都大学付属図書館、阪急学園池田文庫に所蔵される台帳の調査を進めることとなった。大惣旧蔵の歌舞伎台帳は現在、京都大学付属図書館と東京大学文学部国語研究室に分かれて収蔵されているが、今年度は京都大学付属図書館所蔵本について、書誌的情報と筆跡を中心に調査した。とくに特徴的な筆跡をふくむ、「七五三」と署名のある一群の台帳を重点的に閲覧し、筆跡資料の収集と本文内容の検証のために撮影依頼を行った。 貸本屋と劇壇を関係づける徴証として、印記、署名等の他に、本文の筆跡に最も注目しているが、本年度は、歌舞伎台帳研究の最も大きな成果である『歌舞伎台帳集成』をもとに、台帳の帰属をめぐる研究史の整理を行った。さらに、台帳収蔵機関による特徴等をまとめ、早稲田大学演劇博物館21世紀COE研究会における、歌舞伎復元プロジェクトのシンポジウム「歌舞伎のテキスト研究の現状と課題」に加わった。 さらに、筆跡をめぐっては、大惣本中の「七五三」署名本において、特徴的かつ頻出度の高い筆跡(仮に「筆跡A」とする)が、早稲田大学演劇博物館に所蔵される台帳「傾城筑紫」(所蔵番号ロ16-219)にみられることを紹介・発表した。同台帳は上方系の作品の台帳であるが、後の上演に際して加筆がなされた冊を含んでいる。加筆された舞台書の形式が江戸歌舞伎のそれであるところから、上方と江戸の双方に関係あった劇壇内部の人間の手にあったものと推定されるが、それが筆跡Aを含む台帳と一括して同一人の手許に保管されていたことになる。従来、「七五三」署名本は、筆跡等から大惣の筆耕者の手になるものとも考えられてきたが、昨年度成果と併せて最も頻出度の高い二種類の筆跡が、ともに貸本屋でない者に所蔵された台帳に確認された。
|