名古屋の貸本屋大野屋惣兵衛が所蔵していた歌舞伎台帳は、京都大学附属図書館ならびに東京大学文学部国語研究室に分散して保存されている。従来、『歌舞伎台帳集成』等の底本にも選ばれ、貸本屋系統の歌舞伎台帳として、有数の存在とみられてきた。 そのコレクション中にみられる特徴的な一群、「七五三」署名を有する「七五三本」の撮影を進めた。 あわせて全国の他機関に所蔵されている「七五三本」の調査をすすめ、その筆跡により、同一コレクションの散逸したものとの推論を得るに至った。 また、同コレクションの一部と思われる皇學館大学神道博物館所蔵の台帳に、紙背文書のあることを発見し、これの調査を進めた。その結果、歌舞伎台帳を多く所蔵し、希望者に貸し与えていた個人の関わる文書であることを知り得た。また、文書の中には、歌舞伎狂言の腹案らしき草稿の反古のあることも判明し、その狂言もおおよそ特定するを得た。旧蔵者宛の書簡もあり、その宛名に「〆助様」とあるところから、「七五三」すなわち「七五三助」を名乗り、かつ歌舞伎狂言の腹案を必要とする者として、歌舞伎狂言作者奈河七五三助こそ旧蔵者である蓋然性を示す資料として、極めて有力な徴証となり得ることを確認した。 以上の成果は、四年間の研究成果を総合して、成果報告書に収載する予定である。
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