当該研究にいう「散佚歌集に関する古筆資料」とは、(1)完本が現存せず、散佚したと思われていた諸歌集の本文を部分的に伝える古筆切類、(2)残欠本しか現存しない諸歌集の散佚部分の本文を伝える古筆切類、(3)以上の散佚歌集切と何らかの点で関連性を持つ可能性のある古写本類、のことである。これらの資料を能う限り調査・考察・集成し、古典和歌文学の研究を促そうとするのが当該研究の目的である。その遂行のための計画と成果は次のとおりである。 (1)全国各地に伝わる学界未知の古筆資料を調査して、散佚歌集切の発見に努める。 →尊経閣文庫・大阪市立美術館・天理大学附属天理図書館・泉屋博古館・河野美術館・金比羅宮等に蔵される古筆資料類を実地に調査・撮影し、散佚歌集に関する多くの資料を見出した。 (2)(1)によって得られた散佚歌集切の内容等に関して考察し、学術的価値が認められた場合には逐次発表していく。 →俊恵撰の散佚私撰集『歌苑抄』の古筆切、中臣祐臣の残欠家集『自葉集』の散佚部分の古筆切、源承撰の散佚私撰集『類聚歌苑』の残欠本、といった重要資料を見いだしたので、論文もしくは口頭発表の形で学界に報告した。 (3)研究期間内に知られた限りの散佚歌集切の本文を集成して学術誌に一括掲載する。 →「散佚歌集切集成 本文篇」と題して『調査研究報告』第23号に一括掲載した。 (4)既刊古筆資料のデータベース化、及びその一般公開に向けたモデルを構築する。 →逐次データを追加中である。 (5)複製本・影印本として刊行されている諸歌集の古写本類の筆者(合・伝称)一覧を作成する。 →現在作成中である。 以上のうち(2)(3)で得られた成果を一部再編成して研究成果報告書とした。
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