1、漢魏以前の自然描写における中国詩学の「比興」の手法と、形似表現との関わりについて、諸先行研究の読解や東京大学教授戸倉英美氏との学術交流及びその教示を通して、考察中である。 2、魏の曹植の詩賦の「形似」的な表現が、激しい動きと伸びやかさを伴う動詞の使用によって特色付けられていることを確認した。これはすでに先行論文が指摘していた事象だったので論文にはできなかったが、「六朝文学の幕開け」と題する解説文(『週刊朝日百科世界の文学』104、2001年7月)にその知見を盛り込んだ。また曹植における玄学はいまだ、彼の文学に独創性をもたらす働きを為し得ていないと判断された。 3、西晋の陸機の文学を検討し、その「演連珠」五十首を取り上げ、前漢から超宋に至る「連珠」ジャンルの中で位置づけた。従来陸機の文学理論は別として、その詩文には玄学の要素がほとんど指摘されなかったが、「演連珠」は「連珠」ジャンルの中でも突出して玄学的な言説が多いことが分かり、その知見を2001年10月の日本中国学会第53回大会で発表した。そこで、奈良女子大学教授横山弘氏から趙宋以後の連珠も検討すべきであること、また京都大学名誉教授の興膳宏氏から韻律の考察をより周到にすべきであることが教示され、両教示を取り入れた論文を構想中である。また形似に連なる自然描写については、陸機文学の場合、暗澹たる人事との対偶表現に際だった特色が認められ、こうした対偶表現を再調査する必要に迫られた。 4、西晋の張華の楽府を検討し、(1)その長篇に、漢代の大賦における、梁の沈約のいわゆる「形似」表現が導入されているごと、(2)その中篇に、隠逸が任侠者の孤高として表現されていることを見出し、2001年、6月の論文「張華楽府の新味」に発表した。
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