1.平成15年5月に「陸機の天人対--先秦から西晋に至る対偶の一様相--」(『集刊東洋学』第八十九号)、同年夏に「陸機「演連珠」の構成上の特質」(『六朝学術学会報』第四集奥付けに「二〇〇三年三月発行」とあるが半年ほど発刊が遅れた)、同年十月に「陸機「演連珠」五十首について--その多元性と叙情性--」(『日本中国学会報』第五十五集)を発表した。以上の三篇の論文によって、(1)陸機の詩賦に自然についての事象の叙述と人事についての事象の叙述を対照的に配した対偶が多い上、その一部は、従来のそうした対偶と比喩の構造が異なること、(2)陸機の「演連珠」にも自然についての対偶が、連珠のジャンルでは際立って多く、人事についての対偶と対照的に配されていること、(3)「演連珠」五十首は、従来その儒家的・現実的・「玄言」批判的主張の側面が注目されてきたが、玄学の発想による主張も多く、そのために各首の見解にまま齟齬が見られ、叙述があい異なる見解の間を揺れ動く振幅の大きさを呈していること、などを指摘した。上記の(1)(2)から、陸機作品の叙述にも自然描写への萌芽が見られるが、なおその叙述は自然と人事の間を動揺し振幅していること、その振幅は、(3)にうかがわれるような、玄学批判と玄学肯定の間の動揺・振幅と同調しているのであろうことが推測された。またその振幅が、陸機の文学に当時に群を抜いた幅の広さ・スケールの大きさを付与しているであろうことが考えられた。 2.平成16年3月に「郭璞「客傲」訳注およびその位置づけ」(『中国語学中国文学論集』第八号奥付けに「二〇〇三年十一月発行」とあるが数ヶ月間発刊が遅滞)を発表した。郭璞の作品の中でもっとも玄学的な表現の多い「客傲」を取り上げ、先行する長谷川滋成氏や聶恩彦氏の訳注を参考にし時に反論を加えながらその全文の訳注を作成し、魏晋南北朝の修辞主義や隠逸論の中での位置付けを試みたものである。隠逸論としては「客傲」より二百年ほどのちの沈約『宋書』隠逸伝序の先駆となっていることを指摘し、その玄学的発想による「無名」への傾斜が、おなじ書き手の「江の賦」等に見られる形似描写を生み出したものと類推された。 3.平成16年3月に、128頁の『研究成果報告書』を作成した。
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