平成14年度は計画通り「毛沢東様式の隆盛」を中心に資料の収集、整理を行った。9月、北京への出張では、日本では入手し難い文革中の資料を収集するとともに、本研究に関わる美術家や研究者に会い、レビューを受けることができた。資料の面では文革期に関する書籍、革命模範囲のVCD等を収集、整理した。今年度に発表した2つの文章では、中国前近代の伝統に加えて、毛様式などの革命伝統が「二重の伝統」として現代の文化に覆い被さっていることを表出した。またこの過程には「30年代魯迅らの木版画運動に於ける社会主義リアリズムの受容」「50年代ソ連社会主義リアリズムの受容」「80年代西欧モダニズム及びポストモダンの受容」という三度の西洋文化の衝撃のあることを明らかにした。具体的には30年代のコルヴィッツ、50年代のマキシモフやムーヒナといった美術家に絞って中国の作家作品と比較検討し、その受容と反駁を明らかにした。この作業は毛様式の特異性の抽出につながった。また現代アートには、先に述べた「二重の伝統」をパロディー化することによって払拭しようとする動きのあることにも言及した。このことは自らの文化を客体化しようとする努力として捉えられるだろう。また現代中国のパフォーマンス・アートなど地下芸術が日本の60年代アングラ芸術に類似している点も指摘できた。この類似点は中国の1989六四天安門事件と2008北京オリンピック、そして日本の60年安保闘争、1964東京オリンピックという思想的な弾圧と国家的ぺージェントとの狭間に出てくる現象である。こうした政治の「ちから」に対してアートは「もろさ・よわさ」をもって対峙する、このアートの姿勢は両国に共通する。今年度の成果は本研究の指針を示すことができたことだろう。しかしまだ細部に渡る検証が不足している。15年度は本研究の骨格に肉付けしていくための資科収集、整理、考察を行い研究を充足させる必要がある。
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