まず、研究課題のための基礎的調査の一環として、アメリカでの「構文」研究を中心とする近年の中国語文法研究の動向を文献調査し、形式主義的アプローチと機能主義アプローチによる多くの知見を得た。調査結果は「アメリカにおける中国語文法研究の動向」としてまとめた。 一方、「構文」と事態認識に関する具体的テーマについても言語データの収集と先行研究の収集・検討を進め、中国語授与構文(二重目的語構文)や中国語二重主語文の問題などを中心に、研究考察のための基礎作業を行った。その過程で中国語授与構文については、意味的特徴とその構文的反映についての新たな知見を獲得し、その結果を中間報告のかたちで小論(「Zの所有領域」)にまとめた。また、中国語二重主語文に関しても、言語データの収集と分析を行う傍ら、認知言語学的な観点からの考察も行い、その成立要件を明らかにするとともに、身体的な受動的可能事態と能動的可能事態の間に認知的な対立が存在し、その言語的反映として二つの事態に対応する構文に統語的な対立が生じることを、二重主語文との関連において明らかにした。その結果は「中国語二重主語文の意味と構造」において公表される。 ほかに北京方言の「授与」動詞"給"の文法化に関する問題についても、方言との比較対照などを視野に入れつつデータの収集と先行研究における成果の分析を進めており、授与構文から受動構文への拡張と、授与構文から使役構文への拡張は、それぞれプロセスが異なるという事実が明らかになりつつある。
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