本研究は、現代中国語を対象に、客観世界に対する事態認識の言語化に対応して機能する種々の構文のあり方について、それらを意味と機能と構造の面から有機的・相関的に特徴づけることを目的とし、それによって、各種構文間の連関と対立の関係に反映される中国語話者の事態認知上のカテゴリ化の動機づけを明らかにしようとしたものである。具体的には、現代中国語の二重主語構文、受動構文、使役構文、授与構文、結果構文、処置構文、「的」構文などを主たる考察対象とし、近年の認知言語学、言語類型論、中国語方言文法研究などの知見や日本語学など隣接領域の成果を意欲的に取り入れつつ、国内外の研究者との積極的な意見交換と学術討議を重ね、新たな事実の発掘と、初期の目標を達成すべく考察の深化および問題の理論化を図った。 具体的な成果としては、1)中国語の二重主語構文は、感覚・知覚・感情など人間の心身体験的な事態を述べるタイプと、事物の属性的事態を述べるタイプの2種類に意味的および構造的にサブ・カテゴライズされ、両者はそれぞれの意味特性を反映して構文的には主述文と題述文の中間に位置すること、2)受動構文、使役構文、処置構文など従来別個に取り扱われてきた数種の構文は、実は「広義に使役的な事態に対応する」という構文的意味を共有し、全体として有標ヴォイス構文という一つのカテゴリを形成するものであること;また、各構文のサブ・カテゴリ化には、[action]か[state]かという事態特性の対立と、広義使役主の[主体性]もしくは[積極性]の有無の対立が重要なパラメータとして機能していること、3)いわゆる"的"構文における助詞"的"の機能は、行為的事態(=コト)を概念化(=非コト化)することにあり、"的"構文の機能とは、コトから非コトへのカテゴリ・シフトを明示するものであること、等々が明らかにされ、従来見落とされてきた中国語の各種構文の種々の特性が、事態認知上のカテゴリ化の差異と連続性との関わりにおいて相関的、明示的かつ理論的に特徴づけられ、中国語の構文研究に大きな進展と新たな展開がもたらされた。
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