石刻は一次史料であり、中でも摩崖石刻は山水文学との関係が深い。中国の嶺南地域には摩崖石刻が多く、かつ唐代の山水文学の形成に最も影響の大であった桂林およびその周辺に集中している。 本研究では桂林の摩崖石刻について、現地調査を行い、原文を復元することで、従来の研究を補足し、また訂正を迫った。調査地点は約二十個所、調査文物は百余に達し、その中で唐・五代に関する石刻六十六件について、存在地点、現存状態を詳細に記録し、あるいは画像処理した上で、録文を示し、また方志・総集・拓本など今日に伝わる歴代の史料によって対校・校勘を加えて原文の復元を試み、さらに刻年・作者・書者・事跡・真偽等について考察を加えた。その中で最も大きな成果は、1:現状の記録と復元によって文学・史学から宗教・美術に及ぶ多分野に大量の文献資料を提供した。2:『全唐文』・『全唐詩』および最近出版の『全唐文新編』・『全唐詩補編』に収める詩・文を数百字に亙って訂正すると同時にそれらに収められていないものも発見・復元した。それらは千字を越える。3:復元と考察を通して、李渤・呉武陵や元晦が桂林における景勝の開発と山水文学の発展に貢献する所が大であることを明らかにした。3:李陽冰・顔真卿・韓方明など著名な書家の作品を発見し、その真偽を考察すると同時に事跡等に関する史書の記載と従来の研究を補足・訂正した。 本研究は摩崖石刻を中心としたものであるが、今回の現地調査によって洞内の深部にも貴重な石刻・墨書が現存していることを知った。この発見も大きな成果の一つである。今回の研究を基礎として洞外から洞内を対象とした調査と研究に進みたい。
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