本研究において以下の成果をあげた。 (1)元代雑劇の基本資料である『元刊雑劇三十種』のうち、元雑劇の代表的な作者である関漢卿の作品「西蜀夢」および「単刀会」について、諸本との校勘を行い、訳注を作成した。これについては近い将来に発表する予定である。 (2)宋元代に南方で行われた戯曲である戯文には、婚姻をめぐる物語が多くみられるが、それらにおいては、主人公が科挙の試験で状元に合格することが大きな要素となっている。その背景には、南宋における状元重視の時代風潮があると思え、特に戯文の盛んであった温州が状元を多く輩出したことが深く関連している。この点を資料にもとづいて研究し、戯文の特徴とその時代背景を明らかにした。 (3)龍谷大学図書館所蔵の元・郭居敬撰『百香詩選』の写本は、室町末期〜江戸初期に刊本から書写されたものであるが、日本をはじめ中国にも所在の知れない天下の孤本である。この『百香詩選』は、南宋から元代、明代に流行した百詠詩のひとつであり、該当時代における古典詩の傾向を知るうえできわめて重要な資料であるばかりでなく、その日本への影響を知るうえでも貴重である。本研究では、この『百香詩選』を詳しく研究し、その時代背景と日本文学への影響を探った。
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